50歳からの建築

50歳から通信制大学で建築を学びはじめた記録を綴ります

安藤忠雄氏の講演会に行ってきました

大阪で開催された安藤忠雄氏の講演会に行ってきました。

xlab.co.jp

氏が手がけた建築や、事業を立ち上げる上で起きた出来事・エピソードをところどころで笑いを取りながら紹介しつつ、端々に次世代へのメッセージを込めるというものでした。

XLabというIT広告の会社が経営者向けのイベントとして主催したものですが、ところどころ設計・着想の意図などにも触れられていて、建築を学ぶ上でもためになる内容でした。

講演から筆者が感じたことを書きます。(※撮影・録音不可のため、安藤氏の発言は筆者の記憶に基づいた大意です。)

「パワーシフト」を建築で表現する

安藤氏が設計した宗教施設の特徴として、利用者(つまり、信者、門徒)の目線で設計されているということが言えます。

先日のスクーリングでも、先生が「『光の教会』は教壇が建物の一番下に位置していて、信者の座る椅子の席から教壇を見下ろす作りになっています。これは庶民、民衆の立場を重視する意図があると思います。あと安藤さんの講演は話芸の域に達しているくらい面白いので、是非行くと良いですよ」と教わりました。*1


アンリアルエンジンで再現した「光の教会」 Church of the Light by Tadao Ando - Unreal Engine 4 Architectural visualization - part1

淡路島の「本福寺 水御堂」を立てたときのエピソード

お寺が大きな屋根があるのは権威の象徴、お坊さんが偉そうにしたいんですね。だから僕は大きな屋根を設けず、蓮の池から中に入っていく造りにしたんです。これはお坊さんには気に入らない。

(完成したお寺の階段を降りていく僧侶の写真を示して)

ほら、この人ものすごく嫌そうな顔してるでしょ(聴衆大爆笑)

檀家は当初この案に全員が大反対でした、なので京都の大徳寺、立花大亀老師に意見を聴きに行った。

「蓮の池に入っていくというのは仏教のルーツです。どうぞおやんなさい」と言われた。

その話を檀家にしたら全員が賛成に変わった(笑い)

コンクリートのなかの極楽浄土-本福寺 水御堂 | 淡路島LIKERS

「薬師如来像が鎮座する間に夕日の光を取り入れるようにしたのは僕のアイデアではない、数百年前に浄土堂で使われている設計です。歴史に学ばなければならない」とも仰ってました。

反骨精神としたたかさ

淀川沿いに桜を植樹しようとを思い立って、最初1本の植樹の式典にきてもらうよう、当時の大阪府知事や大阪市長に頼んだら都合が悪いと断られた。(当時の首相)小泉純一郎さんに電話したら、即決で来てくれることになった。

「その代わり日にちは1月8日にしてくれ」

「なんでですか」

「俺の誕生日なんだよ」

当日、都合が悪かったはずの知事も市長も式典にきたので

「あんたら都合悪い言うとったやないか」

「いや都合良くなったんです」

一国の首相がくるのに欠席できないですよねw

いきなり電話する安藤氏もかっこいいですが、即決したうえでわがままいう小泉氏もさすがですね。

お寺の件といい、問題が生じたらもっと偉い人を使うしたたかさ、弁証法的というか、見習いたいものです。

きょうび上司や偉い人の言うことに唯々諾々としたがうのは日本人だけですよ。アジアで仕事してたらみんな上に平気で文句言います

ともおっしゃってました。上記のような官僚たちはもう必要ないと言うことでしょうね。

経営

昨年の国立新美術館で開催された「安藤忠雄展」は自身の事務所が主催したもので、前年に個展を開催した三宅一生氏から赤字になったと聞かされたそうで、赤字を避けるためにどうしたら良いか、採算ラインのゴールから逆算してコスト削減と集客の最大化をどうやって果たしたかという話をされました*2

ponpoko1968.hatenablog.com

図録の原価がいくらで、入場者数が何人で、などなど実に細かい数字を交えて説明していただきました。

個人的な経験でも、成功している経営者に共通している点として、細かいところまで数字を把握しているものです。ちなみにこの展覧会で話題を呼んだ実物大の「光の教会」はもとの「光の教会」は建築費3,500万円だったのに、こっちは7,000万掛かったそうで、ここでも笑いを取っていました。

思えば建築というのはコストとの戦いで、コスト感覚が発達しているのは当然かもしれませんが、ここでも

挑戦してみる→コストという課題がみつかる→考える→考える→乗り越える

ということの大事さを強調されていたように思います。

超ポジティブ思考&タフ

癌が見つかってそりゃショックでしたし、内蔵を6つも摘出してどうなるんかなと思いましたけど、やったらなんの問題も無いですね(さすがにそんなことはないとおもいますが)。

悪いことばかりではありません。

ごはん食べたらすぐ仕事してたのが1時間ほど休まないといけなくなって、落ち着いて本を読むようになったので良かったくらいです。

中国からの依頼が増えました。何でや?ってきいたら「5つも内臓を取って生きている人なんていない。縁起が良いからぜひやってほしい」といわれるんです。

いまでも毎日のように事務所の近所のジムに通ってトレーニングしているそうです。来ているのは年寄りばっかりだと嘆いていましたが。

大病を経験されているのに1時間半しっかりとした姿勢で話されていて、体力維持は重要だと思いました。筆者もこのところトレーニングをちょっとサボっていたので再開しようと思いました。

一歩踏み出して「挑戦」しよう

ほかにもいくつかのプロジェクトに挑戦したエピソードを紹介された中で、繰り返し強調されていたのが「挑戦」と「考える、考えて克服する」ということでした。

独学で建築を勉強して事務所ひらいて、この先どないなるんかな?と思ってましたけど、まあなんとかなりました(笑)。楽観的に考えて、問題にぶつかってもなんとかしようと考えたらなんとかなるもんです。皆さんもどうか一歩踏み出してみて下さい。

なんとかなったどころではないですねw

筆者の属するITの世界では自分の専門から一歩踏み出して成長することを「越境」などと言います。建築を学ぶという筆者の「越境」も引き続き取り組んでいきたいと思います。

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地中美術館のスケッチにサインしていただきました

安藤忠雄の建築 1 (1)

安藤忠雄の建築 1 (1)

*1:早速チャンスがあったのでいって来ました。

*2:4億5千万円の黒字を出したけど4割は税金に持って行かれたそうです。だいぶ交渉したけどこればっかりはどうにもならなかったとか